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福岡高等裁判所 昭和30年(ラ)18号 決定

抗告人 渡辺茂

主文

本件抗告は之を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由とするところは、末尾添付の抗告状並びに抗告理由追加書の各写に記載の通りである。而して、本件競売申立にかかる土地に対し特別都市計画法による換地予定地の指定が為されていることは、抗告人提出の証明書により明かである。

然し乍ら、特別都市計画法による換地予定地の指定は、同法による土地区劃整理施行の必要上将来換地として交付さるべき土地を一応予め指定すると共に、換地処分が効力を生ずるまでの間従前の土地の所有者及び関係者をしてその予定地につき使用収益を為す権限を付与し、その反面従前の土地についての使用収益を為すことを禁ずるもの(同法第十三条第十四条参照)に過ぎず、決して換地処分そのものではないから、換地予定地の指定が為されたからとて、これが為に従前の土地の所有権者や抵当権者がその従前の土地についての権利を失うものでもなく、又換地予定地の上に所有権や抵当権を取得するものでもないのである。

従つて、従前の土地につき抵当権を有する者は、その土地に対する換地予定地が指定されて居るときでも、なお従前の土地につき競売を申立て得るにとどまり、決して換地予定地そのものの競売を申立て得るものではない。本件において、抵当権者が従前の土地につき抵当権の実行の為競売を申立て、原裁判所が従前の土地につき手続を進めたのはむしろ当然である。但し、前記の如く換地予定地は将来換地となるべく予定せられた土地であると共に土地の使用収益関係もその予定地の上に移るものであるから、その予定地の位置、坪数その他の諸条件が従前の土地の評価に影響を及ぼすことは当然である。従つて競売に当つての従前の土地の評価、及び、延いて最底競売価格の決定には、換地予定地の坪数その他が斟酌さるべきこともまた申すまでもない。本件記録中の鑑定人の評価書中備考として「区整換地配当坪数」等の記載があるのは、評価にあたり右の様に換地予定地の状況を斟酌したものと認められ、むしろ至当のことと云わねばならぬ。

抗告人の主張するところは、換地予定地を換地そのものと同一視する見解に立つて居るものであつて採用し難く、本件記録に徴するも原競落許可決定を取消すべき事由を発見し難いから、本件抗告は理由なきものと認めて主文の通り決定する。

(裁判長判事 森静雄 判事 竹下利之右衛門 判事 高次三吉)

抗告の理由

本件競落記録を見るに、競落不動産は大牟田市大正町四丁目七拾六番地、家屋番号同町第百五拾壱番地の弐、一、木造瓦葺平家建事務所兼居宅壱棟建坪弐拾六坪 同所七拾六番地の壱一、宅地百九拾五坪 同所七拾六番地の参一、宅地七拾六坪 同所七拾六番地の弐一、宅地百弐拾五坪八合五勺 同所七拾四番地の弐一、宅地六坪八合弐勺 同所七拾四番地の壱一、宅地参拾四坪弐合九勺 右物件に関して競売開始決定競売期日の公告或は競落許可決定するとの表示あり然れども実際上は右宅地に付ては昭和二十五年大牟田市の道路区劃整理の関係にて借金なした昭和二十八年五月十九日の当時は右宅地は既に残地二百八十坪であつたのである。仍て右競売開始決定其期日の公告又は競落許可決定は事実に吻合せない事を記載しあるから不当にして該競落を許可すべきでない事は民事訴訟法第六百七十二条競売法第二十七条に照し明である。其詳細は追て追加理由を以つて疏明する。

追加理由

第一点本件競売事件の基本たる抗告人と相手方との間の抵当権の附着する消費貸借は福岡法務局所属河野已太郎昭和二十八年六月九日作成第六万四千五百四十四号債務弁済契約公正証書に依り貸借成立し抵当権設定の契約をなし抵当権を設定登記され右に基き抵当権の実行として本件競売の申立となつたのである。

第二点本件記録全般を調査するに、(一)競売目的不動産中土地に関しては相手方は競売目的土地を登記簿謄本記載の通りとして表示し競売手続開始の申立をなし、競売裁判所たる原審に於ては右申立に基き土地の表示を登記簿記載の通りとなし、(イ)昭和三十年一月十二日附同庁昭和三十年(ケ)第一号事件として開始決定の上その登記並に関係者に対する送達をなし競売手続は開始進行され、(ロ)鑑定人猿渡正光昭和三十年一月二十七日作成評価書に依るも土地の表示を(イ)通りとなして評価し(但し備考欄には区整換地配当坪数として記載あり)、(ハ)本件に関する昭和三十年二月三日附の競売期日公告に依るも土地の表示は(イ)同様とし、(ニ)又執行吏作成に係かる昭和三十年二月二十四日附不動産競売調書に於ても土地の表示は(イ)同様と表示され、右に基き本件競落許可決定となりたるものなり。(二)然れども本件土地は別紙疏明甲第一号の如く大牟田市特別都市計画事業復興土地に指定され右は早くから一般に公表され換地坪数迄決定されておる土地である。(三)果して然らば相手方が本件競売申立をなすに際しては右の事実を申立書に記載し申立をなし競売裁判所も開始決定をなすに際しては右に基き競売開始決定上にその事実を記載し送達その他登記嘱託手続をなすべきに拘らず原審に於ては右に出でず依つて本件開始決定の送達は不当にして右に依りては未だ土地に対しては差押の効力は発生しないのである。依つて本件競落許可決定は当然これをなすべきに非らず。

第三点既に第一点主張の如く土地に関しては換地坪数があるに拘はらず本件競売期日公告には右を全然記載せず競売に附せられておる。凡そ競売期日公告をなすの法意は一般人に対して目的物の内容、価格の如何んを公表し依つて引受けをなすや否やの考慮の余地を与えしむるために存するのである。右の理由に依り本件競売手続に於ては競売期日公告が内容に不当あり、結局「競売期日公告なきと」同一の結果となりたるものだからその競落は許可すべき非らず。

第四点(一)更らに進んで検討するに鑑定人の評価書に依れば、(イ)土地表示は登記簿通りと表示し、(ロ)備考欄に換地坪数の表示あり、その上に於て評価額が記載されておる。(二)然し右評価額なるものは土地の登記簿上の記載に依る全体の金額なるや又は換地坪数の金額なるやその鑑定の基礎が明かでない。(三)右不明なる鑑定額に依り競売期日公告には右を最低競売価格なりとして公告し競売に附せられておる。(四)然し鑑定人の評価なるものは競売手続上に於て競売法に依り準用せらるる民事訴訟法による売却条件をなすものである。最も競売関係者並に将来競売せんとする者又は競落人に対し重要なるものである。(五)斯かる不明なる鑑定に基き公告をなし競売に附し競落許可決定を与えたるは民事訴訟法第六百七十二条第三号に所謂売却条件の抵触であること明かでありその競落は許すべきに非らず。

第五点本件競売手続には第一点乃至第四点記載の如き不当あり、而して右は競売法第二十七条第三項、同法第二十五条競売法に依り準用せらる民事訴訟法第六百七十二条、六百七十三条に依り異議の理由あるものなり。抗告人は右の如き不当の決定に依り所有権を喪失するは償ひ難き損失を受くるに依り止むなく本件抗告に及びます。

(疏明方法は省略する。)

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